持久性アスリートの間では、よく筋トレをすると体が重くなって持久力が下がるというようなことが言われます。本当にそうなんでしょうか?
近年は、トップレベルの持久性アスリートの中にウエイトトレーニングなど高負荷の筋力トレーニングを積極的に取り入れる人が増えています。本記事では、筋力トレーニングが持久性アスリートの運動パフォーマンスに及ぼす影響について徹底解説します!
目次
忙しい人向けにざっくりまとめると
- 筋力トレーニングを行ったからといって、必ずしも持久性運動能力が落ちるわけではない
- 従来から持久性アスリートが行っているような低負荷の筋力トレーニングではなく、ウエイトトレーニングやプライオメトリックトレーニングのような高負荷の筋力トレーニングを行いましょう。
- ウエイトトレーニングやプライオメトリックトレーニングを持久性トレーニングと組み合わせることで持久性運動能力がより効果的に高まる。
- ウエイトトレーニングやプライオメトリックトレーニングは、週に2~3回の頻度を目安に行いましょう。
- 試合期には、週に1回程度の筋力トレーニングで一度得られた効果はある程度維持することはできる(Rønnestad et al., 2010 and 2011b)
筋力トレーニングをすると持久性能力が下がる?
筋力トレーニングは持久性トレーニングの効果を妨げない
Kraemer et al (1995)は、健常男性を 1) 持久性トレーニングのみを行う群、2) 高強度の筋力トレーニングのみを行う群、3) 持久性トレーニングと高強度の筋力トレーニングを組み合わせる群に分けてトレーニングの効果を調べました。その結果、持久性トレーニングのみを行った場合でも、持久性トレーニングと高強度の筋力トレーニングを組み合わせた場合でも同程度の最大酸素摂取量(VO2max)の向上があったと報告しています。したがって、この研究からは筋力トレーニングは必ずしも持久性トレーニングの効果を妨げないことを示しています。また、最大筋力に対するトレーニング効果についても同様で、高強度の筋力トレーニングのみを行った場合でも、高強度の筋力トレーニングと持久性トレーニングを組み合わせた場合でも、同程度に向上しました。つまり、Kraemer et al (1995)の研究は、筋力トレーニングと持久性トレーニングを組み合わせて行うと、筋力も持久力も上がるという良いとこ取りの結果を示しています。
筋力トレーニングを組み合わせると持久性運動能力がさらに高まる!
持久性トレーニングと筋力トレーニングを組み合わせることの相乗効果
筋力トレーニングは持久性トレーニングの効果を阻害しないだけでなく、近年の研究では、筋力トレーニングと持久性トレーニングを組み合わせることで持久性能力をさらに高めるという報告が多数あります。例えば、Millet et al (2002)は、トライアスロン選手を対象としてウエイトトレーニングと持久性トレーニングを組み合わせた際の効果を調べています。その結果、持久性トレーニングのみを行った場合と比べ、ウエイトトレーニングと持久性トレーニングを組み合わせた際に、VO2max時の疾走速度(vVO2max)や最大下強度でのランニングエコノミーがより向上したことを報告しています。つまり、ウエイトトレーニングと持久性トレーニングを組み合わせることでより効果的に持久性運動能力が高まることを示しています。この実験では、最大挙上重量(1RM)の90%以上の重量を3-5回持ち上げるトレーニングを3-5セット行っています。これは、一般にパワー系アスリートが行うものと同等の内容です。したがって、この研究からは、これまで現場で行われてきたような自重に近い重さのスクワットを100回など低負荷・高回数の筋力トレーニングではなく、最大挙上重量に近い重さスクワットといった高負荷・低回数の筋力トレーニングでの効果を調べたものです。近年の研究では、持久性アスリートでもパワー系アスリートと同等の高負荷の筋力トレーニングを行うことで効果が得られるという報告が多くなされています。
持久性アスリートも、高負荷・低回数のウエイトトレーニングをすることで運動パフォーマンスが向上することが示しています!
自重負荷でも効果を得るためには?
高重量のウエイトトレーニングが持久性運動能力を高めることが示されましたが、ジムなどに通う必要があり、必ずしも万人が取り込めるものではありません。そこで、次に自重負荷を用いた筋力トレーニングの研究をご紹介します。
Spurrs et al (2003)は、一般の長距離ランナー(VO2max: 57 ml/kg/min)を対象としてプライオメトリックトレーニング(2-3回/週)と持久性トレーニングを組み合わせた際の効果について調べています。プライオメトリックトレーニングとは、ジャンプやバウンディング、ホッピングなど自重負荷ですが、最大努力で行う筋力トレーニングのことです。Spurrsらの実験の結果、持久性トレーニングのみを行った場合に比べ、プライオメトリックトレーニングと持久性トレーニングを組み合わせた際に、3000mTTのタイムとランニングエコノミーがより向上したことを報告しています。さらに、Saunders et al (2006)は、エリート長距離ランナー(VO2max: 68-70 ml/kg/min)を対象としてプライオメトリックトレーニング(3回/週)と持久性トレーニングを組み合わせた際の効果を検討しています。その結果、持久性トレーニングのみを行った場合と比べ、プライオメトリックトレーニングと持久性トレーニングを組み合わせた際に、ランニングエコノミーがより向上したことを報告しています。これらのことから、プライオメトリックトレーニングと持久性トレーニングを組み合わせることで、持久性運動能力をより効果的に高めることができることが示されています。また、特筆すべきはこのプライオメトリックトレーニングによる効果は6~9週間という比較的短い期間で達成されているという点です。つまり、これらのトレーニングは1~2ヵ月取り組むことで効果を期待できるということです。
高重量のウエイトトレーニングではなくとも、自重負荷・最大努力のプライオメトリックトレーニングでも効果があることが示されています!
筋力トレーニングによりラストスパート能力が高まる?
持久性スポーツではしばしば、長時間集団で走り続け、終盤のスパートの良しあしで成績が決してしまうことがあります。つまり、一定ペースで走り続ける能力が高くても、ラストスパートの能力が低ければ、必ずしも良い成績がおさめられないということです。Rønnestad et al (2011)は自転車競技選手を対象として高重量ウエイトトレーニング(2-3回/週)と持久性トレーニングを組み合わせた際の効果を検討しました。ラストスパート能力のテストとして、185分間の最大下強度の自転車漕ぎ(44%Wmax, Heart rate: 120-140)の後に、5分間の全力漕ぎを行うテストを行いました。その結果、持久性トレーニングのみを行った場合と比べ、高重量ウエイトトレーニングと持久性トレーニングを組み合わせた際に、ラストスパート能力(最後の5分間の平均パワー)がより向上したことを報告しています。このことから、高重量ウエイトトレーニングは持久性アスリートのラストスパート能力を高めうることが示されています。
どのくらいの頻度で筋力トレーニングを行えばいい?
ここまで、高重量のウエイトトレーニングやプライオメトリックトレーニングなどの筋力トレーニングが持久性運動パフォーマンスを高めうることをお示ししました。では、実際に取り組む際にはどの程度の頻度で筋力トレーニングを行えばよいのでしょう?
プライオメトリックトレーニングの頻度を変えたいくつかの研究では、週1回程度の頻度では効果がなく、効果を得るには週に2~3回が必要であるということが示されています (Paavolainen et al., 1999; Mikkola et al., 2007)。週に2~3回というのは、一般的にパワー系アスリートに筋力トレーニングを処方する際の頻度と同等です。なので、持久性アスリートだからといって頻度を落とすのではなく、週に2~3回しっかりと筋力トレーニングを行う必要があるようです。
筋力トレーニングの効果を得るには、”何をやるか”だけでなく、”どのくらいの頻度やるか”も大事です。効果を得るには、週に2~3回程度行いましょう!
まとめ
- 筋力トレーニングを行ったからといって、必ずしも持久性運動能力が落ちるわけではない
- 従来から持久性アスリートが行っているような低負荷の筋力トレーニングではなく、ウエイトトレーニングやプライオメトリックトレーニングのような高負荷の筋力トレーニングを行いましょう。
- ウエイトトレーニングやプライオメトリックトレーニングを持久性トレーニングと組み合わせることで持久性運動能力がより効果的に高まる。
- ウエイトトレーニングやプライオメトリックトレーニングは、週に2~3回の頻度を目安に行いましょう。
参考文献
- Kraemer et al. 1995. Compatibility of high-intensity strength and endurance training on hormonal and skeletal muscle adaptations.
- Millet et al. 2002. Effects of concurrent endurance and strength training on running economy and VO2 kinetics.
- Spurrs et al. 2003. The effect of plyometric training on distance running performance.
- Saunders et al. 2006. Short-term plyometric training improves running economy in highly trained middle and long distance runners.
- Paavolainen et al. 1999. Explosive-strength training improves 5-km running time by improving running economy and muscle power.
- Mikkola et al. 2007. Concurrent endurance and explosive type strength training improves neuromuscular and anaerobic characteristics in young distance runners.
- Rønnestad et al. 2011. Strength training improves 5‐min all‐out performance following 185 min of cycling.
- Rønnestad et al. 2010. In-season strength maintenance training increases well-trained cyclists’ performance.
- Rønnestad et al. 2011b. Effects of in-season strength maintenance training frequency in professional soccer players.
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