乳酸性作業閾値(LT)とは何か? [ちゃんと理解してる?]

生理学
この記事を書いた人
竹井 尚也

東京大学 特任研究員/東京大学 陸上運動部コーチ

スポーツ科学(運動生理学)の研究者。科学的根拠に基づく運動指導を行っています。

指導した東大生から2年連続箱根ランナーが輩出しました。

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目次

乳酸性作業閾値(にゅうさんせいさぎょういきち、LT)とは?

運動を行うときには、運動の強度に応じて乳酸の産生量が変わります。軽い運動では、乳酸はあまり作られません。一方で、激しい運動を行うとたくさんの乳酸ができます。しかし、乳酸の産生量は、運動強度の増加に伴って直線的に増加するわけではなく、下図のような弓なりのカーブを描きます。

上図の場合では、1キロあたり4~5分では乳酸はあまり上がりません。一方で1キロあたり3分のペース以上では、血中乳酸濃度が急激に高くなっています。このように乳酸が上がり始めるポイントのことを乳酸性作業閾値(LT)と呼びます

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乳酸性作業閾値(LT)は何を意味する?

私たちが運動をするときには、主に糖と脂肪を使って運動に必要なエネルギーを作ります。そして、糖を多く使うと、結果として乳酸が多くできます。したがって、運動時の血中乳酸濃度を測定することで、運動時にどれだけ糖を使ったかを推察することができます。先ほどの図に当てはめると、1キロあたり4~5分では、あまり糖を使わずに脂肪を主に使っていて、1キロあたり3分以降からは糖の利用量が多くなっています。すなわち、乳酸性作業閾値(LT)は、糖の利用を抑えながら、運動できる最大ペースということができます。糖は限られたエネルギー源なので、長時間運動する際には上手く節約しながら運動する必要があります。そこで、糖を節約しながらなるべく速く走れるLTペースは、マラソンの目安のペースともされています。

乳酸が出るから疲れるのではない

よくある誤解の一つに、「乳酸性作業閾値(LT)からは乳酸が蓄積していき、そのため疲労する」というものがあります。たしかに、1キロあたり3分を切るような速いペースで走ると乳酸がたくさん蓄積して、同時に疲れています。これは、速いペースで走る際に、エネルギーがたくさん必要になって、糖が大量に分解されていることを示しています。したがって、「乳酸が出た(原因)から疲れる(結果)」のではなく、「疲れるような運動をした(原因)から乳酸が出た(結果)」という認識のほうが正しいです。したがって、血中乳酸濃度が非常に高くなるようなトレーニングは「乳酸に耐えるトレーニング」ではなく、「糖をたくさん利用するトレーニング」という見方が適切です。

糖を使う能力を高めるために、高強度トレーニングも大事

持久性スポーツのトレーニングでは、LTペースでの持続走を行うことが多くあると思います。たしかに、多くの競技種目では、LTペースが実際のレースペースに近く、実践的な練習となります。しかしながら、LTペースでの練習では糖をたくさん利用することはありません。また、実際のレースでは終始一定のペースで走るわけではなく、ペースのアップダウンやラストスパートが存在します。そして、一気にペースアップする際には、糖をたくさん利用する必要があります。したがって、レースを制するには、道中は糖を節約し、使いどころで一気に糖を使える能力が重要です。こうした一気に糖を使う能力を鍛えるには、血中乳酸濃度が大きく上がる(>4mmol/L)ペースでの、高強度トレーニングが重要です。レースペースの練習だけでなく、レースよりもかなり速いペースでの練習も織り交ぜることが重要です。

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