マラソンの30kmの壁って何?-東大博士が解説-

この記事を書いた人
竹井 尚也

東京大学 特任研究員/東京大学 陸上運動部コーチ

スポーツ科学(運動生理学)の研究者。科学的根拠に基づく運動指導を行っています。

指導した東大生から2年連続箱根ランナーが輩出しました。

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マラソンでは30kmくらいで急激にペースが落ちることがあります(30kmの壁)。

なぜこの距離でペースが落ちるのか、また考えられうる対策は何でしょうか?

30kmの壁の要因と対策について勉強して行きましょう!

目次

マラソン中に起こる糖の枯渇

まず初めに運動中の疲労は多種多様で一つの要因で決まるわけではありません。30kmの壁の原因も当然色々あるということを押さえた上で、その中でも影響の一番大きいだろうという要因について説明します。

マラソンなどの長時間運動後半での疲労の大きな要因は、筋グリコーゲン(糖)の枯渇です

例えば、体重60kgのランナーがマラソンを走る時に必要なエネルギーは、ざっくり計算で2500kcalくらいです。一方で、体内のグリコーゲン貯蔵は2000kcalくらいしかありません。

つまり、グリコーゲンは身体の中の限られたエネルギーであり、マラソン中に大きく減少(枯渇)しうるということです。

一方で、グリコーゲンは利用しやすいエネルギーです。そのため、ペースが上がるほどエネルギー需要が高まり、グリコーゲンを多く利用することになります。

マラソン中にペースを上げすぎると、序盤は快調でも、グリコーゲンの消費が激しく、後半には枯渇することでペースが維持できなくなります

トレーニングにより脂肪の利用量を増やす(グリコーゲン節約効果)

グリコーゲンの枯渇を防ぐ代表的方法として、脂肪の利用量を高めるという方法があります。

糖は体内に限られた量しかないのに対して、脂肪は身体に何万~何十万kcalもあります。つまり、脂肪は一度の運動でなくなるなんてことは絶対になくて基本的に使い放題というわけです!

では、脂肪利用はどうすれば高まるのか?

実は脂肪利用はトレーニングにより高めることができます。トレーニングにより脂肪利用が高まると、同じペースで走った際に糖の代わりに脂肪を多く利用することになるので、糖を節約することができます(グリコーゲン節約効果)。結果として後半まで糖が残り、30㎞以降の大きなペースの落ちを抑制することが出来ます。

また、エリート選手のレースを見ると、しばしばネガティブスプリット(後半にさらにスピードが上がる)になることがあります。これは、前半に特にペースを抑えて走って、後半にたくさん残した糖を一気に使っているということです。

どんなトレーニングをすれば脂肪利用が高まる?

そもそも、なぜトレーニングすると脂肪利用が増えるのか?

それはミトコンドリアが増えるからです

ミトコンドリアは、脂肪等を利用してエネルギー産生する細胞小器官です。トレーニングをすると筋肉のミトコンドリアが増え、さらにエネルギーを産生できるようになります。

近年の研究では、ミトコンドリアを増やすためには「高ボリュームのトレーニング」や「高強度トレーニング」が有効であると分かってきています。

脂肪利用を高めるには高ボリュームのジョギングが良いと昔から言われますが、それ以外にも高強度トレーニングも有効です。

つまり、ジョギングで量を踏むことも、たまに高強度インターバルをやることもミトコンドリアを増やすことに有効です

重要なのはどちらか片方ばかりやるのではなく、これらをバランスよく取り入れることです。特にエリート選手の場合は、後半のペースアップが勝敗を分けることがあります。マラソンといえども高強度インターバルでスピードをつけることも重要です

バランスのよいトレーニングを行いマラソンを攻略しましょう!!

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