熱中症対策には、スポーツドリンクを薄めてはいけない[水分補給]

栄養学
この記事を書いた人
竹井 尚也

東京大学 特任研究員/東京大学 陸上運動部コーチ

スポーツ科学(運動生理学)の研究者。科学的根拠に基づく運動指導を行っています。

指導した東大生から2年連続箱根ランナーが輩出しました。

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暑熱環境下で運動する際には、熱中症対策が重要になります。熱中症対策の一つとして適切な水分補給が必須です。水分補給戦略を間違えると、運動パフォーマンスの低下をもたらすだけでなく、重大な健康被害をもたらします。したがって、水分補給戦略は経験則や感覚ではなく、しっかりとした科学的根拠に基づいて行われなければなりません。本記事では、暑熱環境下での水分補給について解説します。

目次

暑熱環境下での体温調整

暑熱環境下で運動する際には、私たちの体温は大きく上昇します。このような体温の上昇を抑えるために、皮膚への血液量を増やし、運動で生じた熱を皮膚から拡散させるようとします。また、皮膚付近に運ばれた熱は、汗が蒸発する際に気化熱が奪われることによって効率よく拡散します。したがって、暑熱環境での体温調整には、「皮膚血流量の増加」「発汗」が重要な役割を果たします。

発汗量と運動パフォーマンスの低下

暑熱環境下で運動すると、体温調節のために大量に発汗します。しかし、発汗が進み体水分量が減少すると運動パフォーマンスの低下をもたらします。暑熱環境下(30℃)で運動をする際に、体重の2%の水分を失うと運動パフォーマンスが低下することが知られています(Coyle, 2004)。さらに、脱水が進むと運動パフォーマンスの低下だけでなく、体調不良が起こり、最悪の場合は死に至るケースがあります。そこで、暑熱環境下での運動時には、積極的な水分補給が推奨されます

水だけを飲むと無自覚な脱水に陥る

私たちの汗には、水分だけでなくナトリウムなども含まれています。したがって、発汗により損失した水分とともにナトリウムなどのイオンも同時に摂取することが重要です。暑熱環境下での運動中の水分補給として水だけを摂取すると、十分に水分補給してるつもりでも、実は無自覚の内に脱水状態に陥ってしまいます。このような無自覚な脱水状態は「自発的脱水」と呼ばれています。

自発的脱水のメカニズム

暑熱環境下での運動で大量に発汗すると、喉の渇きを自覚するようになります。この喉の渇きは、主に体の中の水分の濃さ(浸透圧)の変化によって起こります。大量に発汗する時、水分とナトリウムが同時に失われますが、実はナトリウムの損失よりも水分の損失の割合が大きいです。そうすると体液中のナトリウム濃度が濃くなり(浸透圧が高まり)、体液の濃さを戻すために喉が渇き、飲水を促します。もし、この時にナトリウムを含まない水のみを摂取した場合、体水分量が元に戻る前に体液の濃さ(浸透圧)が元に戻り、喉の渇きが治ります。したがって、大量に発汗した時に水だけを自由摂取すると、無自覚の内に脱水することになります(自発的脱水)。自発的脱水のように体水分量が少なくなった状態では、体液の濃度が正常化し喉の渇きがおさまったとしても、次に汗をかく余力が少なく容易に熱中症などを引き起こします

では、水だけを喉の渇きに応じず無理に多く摂取しすれば、自発的脱水を防げるのでしょうか? 大量に発汗した際に、喉の渇きがおさまってもさらに水のみを摂取すると、体水分は正常時に戻せますが、今度は体液の濃度(浸透圧)が過度に薄くなってしまいます。このように大量に発汗した時に水だけを大量に摂取すると、低ナトリウム血症に陥り、体調不良をもたらし、ひどい場合は痙攣や昏睡に至ります

暑熱環境下では、適切なナトリウム濃度のドリンクを摂ろう!

発汗する際には、水分とともにナトリウムも多く損失します。そこで、大量に発汗するような時には、水のみではなく、スポーツドリンクなど適切なナトリウム濃度(40-80 mg/100 ml)の溶液を摂取することが推奨されます。たいていの市販スポーツドリンクはこのナトリウム濃度になるように設計されています。つまり、市販のスポーツドリンクは元々の濃度で、水分とナトリウムを効果的に吸収できるように工夫されているわけです。

スポーツドリンクは薄めて飲む方が吸収がいい?

しばしば「スポーツドリンクは薄めて飲む吸収がよい」という風に言われますが実際にはどうなのでしょう? 市販のたいていのスポーツドリンクはアイソトニック飲料といって、体液と同じ浸透圧で作られています。アイソトニックなスポーツドリンクでは、水分とナトリウムを効果的に吸収できます。一方で、アイソトニックなスポーツドリンクを薄めると、ハイポトニック飲料といって、体液よりも浸透圧の低い飲料になります。ハイポトニック飲料は浸透圧の差により、効率よく水分が補給できるという特徴ありますが、一方でナトリウムを補給するのには適していません。そこで、胃腸炎時の下痢などによりナトリウムよりも水分の損失が大きい時には、ハイポトニック飲料は有効です。しかしながら、前述の通り水分とナトリウムを大量に損失する暑熱環境下での運動時には、ハイポトニック飲料は水分は補給できるものの、ナトリウムなどは補給しにくいため、お勧めできません。暑熱環境下で水分とナトリウムを効果的に補給するには、市販のスポーツドリンクを薄めずにそのままの濃度で飲みましょう

まとめ

暑熱環境下での運動時など、大量に発汗する時は水分とナトリウムなどの電解質も同時に補給しましょう。また、発汗により水分とナトリウムなどの電解質が失われている時、スポーツドリンクなどは薄めずに、適切なナトリウム濃度の飲料を摂りましょう!

参考文献

Coyle. (2004) Fluid and fuel intake during exercise. J Sports Sci.

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