月間走行距離だけでなく、トレーニング強度配分の視点も持つべき[Polarizedトレーニング]

持久性運動トレーニング
この記事を書いた人
竹井 尚也

東京大学 特任研究員/東京大学 陸上運動部コーチ

スポーツ科学(運動生理学)の研究者。科学的根拠に基づく運動指導を行っています。

指導した東大生から2年連続箱根ランナーが輩出しました。

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持久性運動パフォーマンスを高めるにはどのようなトレーニングをすれば良いのでしょうか? 持久的アスリートが長期的なトレーニングを組み立てるときに、よく月間走行距離などを目安とすることがあります。月間走行距離もトレーニング量を判断する大事な目安の一つですが、その他にも注意すべきことがあります。今日はその中でもトレーニング強度配分(頻度)についてご紹介します。

月間走行距離はあくまでトレーニング量の指標でしかない

持久的アスリートのトレーニング処方では、よく月間走行距離が注目されますが、月間走行距離はあくまで「トレーニング量」の指標でしかありません。月間走行距離の大小だけで良いトレーニングか悪いトレーニングかが決まるわけではありません。
月間走行距離が300㎞の選手の練習よりも、500㎞の選手の練習の方が良いとは一概に言えません。例えば、低強度のジョギングばかりをトレーニングに組み入れれば、月間走行距離を増やしやすいですし、一方で高強度インターバルトレーニングの頻度を高めると月間走行距離は減少しやすいです。もし、月間走行距離の大小だけでトレーニングの良し悪しが決まるなら、ペース走もインターバル走もやらずにジョギングだけを高頻度でやればよいですが、実際にはジョギングに加えて、ペース走やインターバルトレーニングをバランス良くやらなければ良好なトレーニング効果が得られません

トレーニング強度配分 ートレーニングの内訳ー

トレーニング量の指標である月間走行距離に加えて、トレーニング強度のバランスの指標としてトレーニング強度配分(Training Intensity Distribution)があります。トレーニング強度とは、簡単にいうと運動のペースのことです。一般的に、ジョギング(LT以下)は低強度、ペース走(LT付近)は中強度、インターバルトレーニング(VO2max付近)を高強度という風に分類されます(3ゾーンモデル)。

3ゾーンモデルの強度分類
低強度:LT以下の強度
中強度:LT~OBLAの強度 (80~90%HRmax)
高強度:OBLA以上の強度 (>90%HRmax)
※LT=マラソンペース前後;OBLA=10000mペース前後;HRmax=最大心拍数

トレーニング強度配分を用いることで、月間走行距離の「内訳」が分かるようになります。同じ月間走行距離であったとしても、例えば低強度をメインでやった時と中強度~高強度も織り交ぜながらやった時では効果が異なります。前述のように月間走行距離の大小だけでトレーニングの良し悪しが決まらない理由の一つとして、トレーニング強度配分の違い、すなわちトレーニングの内訳に違いが挙げられます。良好なトレーニング効果を得るためには、月間走行距離だけを注意するのではなく、バランスの良いトレーニング強度配分でトレーニングをする必要があります

”バランスの良い”トレーニングとは? ーPolarizedトレーニングー

では、バランスの良いトレーニングとはいったいどのようなものなのでしょう? エリート持久的アスリートがどのようなトレーニングをしているか、また、実験的に設定した色々なトレーニングモデルが持久性運動パフォーマンスを高めるのにどのくらい効果があるのかについて、これまでに盛んに研究されてきました。その結果、低強度を75%、中強度を5-10%、高強度を15-20%程度の頻度で行うのが最も効果的に持久性運動パフォーマンスを高めることが明らかなっています(Stöggl and Sperlich, 2014; Muñoz et al., 2014)。持久性トレーニングといえば、ペース走や距離走など中強度のトレーニングを中心に行うのが代表的な方法と考える人も多いかと思います。しかし、研究結果からは実はジョギングをたくさん行いトレーニング量を確保しながら、週に2回程度のインターバルなど高強度トレーニングを行い、中強度をあまり行わないといった低強度と高強度を中心に行うトレーニングが効果的と示されています。このような低強度と高強度にメリハリをつけたトレーニング強度配分はPolarizedトレーニングモデルと呼ばれます(強度配分(頻度):低強度75%;中強度;5-10%;高強度15-20%)。なお、これはトレーニング頻度なので、例えば60分jogは低強度1回となり、OBLA速度での1000m×5のインターバルは高強度1回という風に数えています。

月間走行距離と強度配分の両方の視点を持つべき

ランナーの中には、月間走行距離の大小にとらわれて、トレーニング強度の内訳を軽視している方も見受けられます。月間走行距離もトレーニング強度配分もどちらもトレーニング効果を決定づける大事な要素です。Polarizedトレーニングモデルの強度配分を維持しながら、継続可能な範囲で月間走行距離を多くすることが推奨されます。
月間走行距離を増やすことにとらわれ過ぎると、無理にジョギングの頻度や一回の距離を増やしてしまい、長期的に疲労が蓄積しトレーニングが継続できなくなったりします。また、高強度トレーニングでは、少なくともOBLAや90%HRmax程度を上回る強度で行うことが推奨されますが、月間走行距離を増やすために、インターバル走一回あたりの走行距離を延ばしすぎたり、インターバル走の本数を増やし過ぎたりすることで、推奨された強度が維持できなくなり、狙った高強度トレーニングの効果が得られないこともありえます。
月間走行距離は競技レベルにより適正な距離が大きく変わりますが、適正なトレーニング強度配分は競技レベルによらず同様です。週に2回程度の高強度トレーニングを繰り入れながら、なるべく高頻度で低強度トレーニングを行い、長期的に継続可能な範囲で月間走行距離を増やしていくことが大事です

参考文献

  1. Stöggl T, Sperlich B. Polarized training has greater impact on key endurance variables than threshold, high intensity, or high volume training. Front Physiol. 2014;5:33. Published 2014 Feb 4. doi:10.3389/fphys.2014.00033
  2. Muñoz I, Seiler S, Bautista J, España J, Larumbe E, Esteve-Lanao J. Does polarized training improve performance in recreational runners?. Int J Sports Physiol Perform. 2014;9(2):265-272. doi:10.1123/ijspp.2012-0350

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