[RS]サッカーなど球技スポーツの持久力を鍛えるには?[繰り返しスプリントトレーニング]

球技スポーツ
この記事を書いた人
竹井 尚也

東京大学 特任研究員/東京大学 陸上運動部コーチ

スポーツ科学(運動生理学)の研究者。科学的根拠に基づく運動指導を行っています。

指導した東大生から2年連続箱根ランナーが輩出しました。

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一口に持久力といっても様々な持久力が存在します。例えば、マラソン選手に求められる持久力やサッカー選手に求められる持久力、野球の投手に求められる持久力、陸上400m走者に求められる持久力など様々な文脈で持久力という用語が使われます。しかし、各競技において求められる持久力の性質は必ずしも一致しません。本記事では、サッカー(あるいは他の類似の球技スポーツ)で求められる持久力について解説し、どのようにトレーニングするべきかご紹介します。

目次

忙しい人向けにざっくりまとめると

  • サッカーを始めとする球技スポーツでは、試合中にジョギング~ランニング~ダッシュといった幅広い速度帯での走運動を断続的に繰り返す
  • 特に速度の高いランニングやダッシュを繰り返せる能力が重要
  • 高強度インターバルトレーニング(HIIT)と繰り返しスプリントトレーニング(RS)が、球技スポーツアスリートの持久性トレーニングとなりえる
  • RSは、一般的な持久性能力以外にもサッカー特有の持久性能力も高めうる
  • HIITは、一般的な持久性能力を高めるが、サッカー特有の持久性能力を高める効果は少ない
  • RSを優先的に行うべきだが、場合によってHIITも実施してよい

球技スポーツではダッシュの繰り返し能力(RSA)が特に重要

サッカーを始めとする多くの球技スポーツでは、試合中にジョギング、ペースの速いランニング(>15 km/h)、ダッシュ(>20km/h)といった幅広い速度帯での走運動を断続的に行う必要があります(Iaia et al., 2009)。したがって、一定ペースを長時間維持するような一般的な持久性アスリートの持久性能力と、球技スポーツ選手に求められる持久性能力は必ずしも一致しません。
サッカー選手の試合中の走行について調べた研究では、トップレベルの選手では平均的な選手に比べて、特にスピードの速いランニング(>15 km/h)とダッシュ(>20km/h)の走行距離が長かったことが報告されています(Iaia et al., 2009)。したがって、サッカー選手のパフォーマンスは、サッカー特有の技術だけでなく持久性能力の大小にも影響されることが予想されます。せっかく高いサッカー特有の技術を持っていても、試合後半にスタミナ切れになると十分に能力を発揮できなくなってしまいます。

竹井尚也
竹井尚也

球技スポーツでは、その球技特有の技術の高さだけでなく、持久力の高さも無視できないほど大事な要素です。

さらに、サッカーを始めとする球技スポーツの試合中には、しばしばダッシュした後、完全に息が整わないうちに再びダッシュをしなくてはいけない場面があります。サッカー(or球技)の試合中にダッシュする局面と言えば、守備ラインを突破する(された)時やカウンターを仕掛ける(仕掛けられた)時などたいてい得点に絡むような重大な局面です。したがって、疲れている状態でもダッシュを何本も繰り返せる能力(Repeated Sprint Ability, RSA)は球技スポーツにおいて重要であると考えられています(Girard et al., 2011; Bishop et al., 2011)。

竹井尚也
竹井尚也

疲れている状態でもしっかりダッシュできる能力が球技スポーツでは、特に重要です。

では、サッカーを始めとする球技スポーツのアスリートはどのように持久性トレーニングを行えばよいのでしょうか?

球技スポーツアスリートに効果がありうる持久性トレーニング

持久性アスリートが行う代表的なトレーニングとして、高強度インターバルトレーニング (High Intensity Interval Training, HIIT)があります。HIITは持久性アスリートの最大酸素摂取量 (VO2max)を効果的に高める方法として広く知られています (Laursen and Jenkins, 2002)。最大酸素摂取量は持久性運動パフォーマンスを決定づける重要な要素です。サッカーの試合中には、一般に総走行距離が10㎞以上、スピードの速いランニング(>15 km/h)の走行距離が2~3km程度となり、中長距離選手のような持久性能力 (高いVO2maxなど)も求められると考えられます (Iaia et al., 2009)。
HIITは一般に数分間の高強度運動を休息を挟みながら繰り返すトレーニング方法 (例. 4×4分@90%VO2max)です。一方で、サッカー始めとする球技スポーツの試合中には、数秒程度の短いダッシュが不完全な休息を挟んで繰り返されます。そこで、より球技スポーツ中のダッシュの繰り返しに近いトレーニングとしては、繰り返しスプリントトレーニング (Repeated Sprint training, RS; 例. 6秒スプリント+30秒休息を10回反復)があります。HIITおよびRSのどちらも球技スポーツアスリートの持久性トレーニングとなりえると考えられます。

竹井尚也
竹井尚也

サッカーなどの球技スポーツでは、試合中により長い距離を走れる能力とダッシュを繰り返す能力の両方が求められます。

反復スプリントトレーニング vs. 高強度インターバルトレーニング

では、実際に球技スポーツアスリートは、HIITとRSのどちらを行えばよいのでしょうか? そのヒントとなる研究をご紹介します。
Ferrari Bravo et al.(2008)は、プロ選手、アマチュア選手、ジュニア選手を含むサッカー選手を対象に、7週間のHIITもしくはRSを行うトレーニング介入(2回/週)を実施しました。

トレーニングの群分け

HIIT群:4×4分@90-95%最大心拍数, 3分レスト

RS群  :6×40mシャトルスプリント(10~20m毎に180°切り返す)を3セット, シャトルラン間20秒レスト;セット間3分レスト

また、トレーニング介入前後にパフォーマンステストを行い、それぞれのトレーニングの効果を検討しました。
測定項目

・最大酸素摂取量テスト: VO2maxを測定;一般的な持久力評価

・Yo-Yo Intermittent recovery test(YYIRT): 20秒スプリント+10秒レストを徐々に速度を上げて疲労困憊まで;サッカー特有の持久力評価

・RSAテスト: 6×40mシャトルスプリント(20秒レスト)の走破タイムを評価;繰り返しスプリント能力を評価;サッカー特有の持久力評価

・垂直跳び&10mスプリントテスト: 爆発的力発揮能力の評価

結果と考察

一般的な持久性能力
最大酸素摂取量は、トレーニング介入の結果、両群で同程度(+5.9%, p<0.001)増加しました。したがって本研究では、一般的に最大酸素摂取量を効果的に高める方法であるHIITと同様のトレーニング効果をRSでも起こすことができたといえます。

サッカー特有の持久性能力
YYIRTのパフォーマンスは、トレーニング介入の結果、両群で向上しましたが、RS群でその増加率はより大きかったことが示されています(+28.1 vs. +12.5%, p=0.003)。
また、RSAテストのパフォーマンスは、トレーニング介入の結果、RS群でのみ有意に向上しました(+2.1%, p=0.006)。
したがって、サッカー特有の持久性能力はRSでより効果的に向上することが分かりました。YYIRTはスプリント一回毎に止まってから再スタートしますが、一方でRSAテストでは全力走から急停止し切り返すというタスクが入っています。YYIRTで求められるような持久性能力はHIITでもある程度高まりますが、切り返しタスクの入ったRSAテストの能力はRSでなければ向上しにくいようです。サッカーを始めとする多くの球技スポーツでは、スプリント中に素早く切り返す能力が重要です。

爆発的力発揮能力
垂直跳びおよび10mスプリントタイムは、トレーニング介入の結果、両群とも変化しなかったことが報告されています。したがって、HIITのような数分間走り続けるような持久性トレーニングを行っても、爆発的力発揮能力に負の影響が起きなかったことが示されました。HIITを行うことで、ジャンプ力やスプリント力が落ちるといった心配はないようです。一方で、RSのような短いスプリントを繰り返すトレーニングであっても爆発的力発揮能力が高まらないことも示されています。つまり、もし爆発的力発揮能力を高めたい場合には、ただ短い距離を走ればよいということではなく、十分に休憩を取って一本一本高い速度で走ることが重要であると考えられます。

竹井尚也
竹井尚也

球技スポーツアスリートには、繰り返しスプリントトレーニングがおすすめです! ただ、スプリントの最大スピードを高めるようなトレーニングは別に取り入れて下さいね。

まとめ

Ferrari Bravo et al.(2008)の研究結果をみると、サッカーを始めとする球技スポーツアスリートは、HIITよりもRSをより優先的に実施すればよいでしょう。RSを行うことで、一般的な持久性能力を鍛えられるだけでなく、球技特有の持久性能力も鍛えることができます
一方で、必ずしもHIITが劣っていて、RSが優れているというわけでもありません。例えば、RSはHIITに比べて、スピードが高く、筋や関節などにかかる力学的な負荷は大きくなると予想されます。したがって、力学的なストレスによる故障リスクを下げるにはたまにHIITのような持久性トレーニングに置き換えるという方策も考えられます。今回紹介した論文でも示されているようにHIITは最大酸素摂取量を向上させるのはもちろんのこと、切り返しを要さない反復スプリント能力も高めることが示されています。また、爆発的力発揮能力に負の影響もありません。このことからHIITもまた球技スポーツアスリートの持久性トレーニング方法の一つとなると考えられます。
他方、RSは短いスプリントの反復ですが、爆発的力発揮能力を高めるには至りませんでした。見かけはダッシュをしているので、爆発的力発揮能力が高まりそうですが必ずしも効果が得られるとは限らないようです。そこで、爆発的力発揮能力を高める狙いであれば、スプリント間のレストを十分にとって(3~5分)、一本一本なるべく速く走ろうとすることが重要だと思われます。

明日からのトレーニングにRSやHIITを取り入れてみてはいかがでしょう?

参考文献

  1. Iaia et al. (2009) High-intensity training in football.
  2. Girard et al. (2011) Repeated-sprint ability—Part I.
  3. Bishop et al. (2011) Repeated-sprint ability—Part II.
  4. Laursen and Jenkins. (2002) The scientific basis for high-intensity interval training: optimising training programmes and maximising performance in highly trained endurance athletes.
  5. Ferrari Bravo et al.(2008) Sprint vs. interval training in football.

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