スプリントインターバルトレーニング(SIT)は、一般に30秒全力運動を4~6回程度繰り返すトレーニング方法です。SITは、効率的にミトコンドリア量を増やし、中長距離パフォーマンスを効果的に高めるトレーニングとして注目されています(Maclnnis and Gibala, 2017)。さらに、SITに要する時間は一般的な持久性トレーニングに比べて短いため、SITは時間的効率のよいトレーニング方法として多忙な現代人に有効とされています。SITについて詳しくは以前の記事をご参照ください。参考:[時間的効率の良いトレーニング方法]スプリントインターバルトレーニングとは?
SITは30秒の全力運動を4~5分間の休止を挟み繰り返す運動で、効果が高い一方で、非常にキツいトレーニングです。つまり、SITはけっして楽してトレーニング効果を得られる方法ではありません。また、SITのような強力なトレーニング刺激を体に加えたとしても1回のトレーニングでは効果を得ることはできません。トレーニング効果を得るには、適切なトレーニングを一定期間継続することが大事です。SITは1回のセッションあたりの時間が短く、かつ効果の高いトレーニングだけど、そのトレーニングのキツさから体力レベルの高くない人にとっては継続するのが難しいといったジレンマがあります。そこで、本記事ではSITの運動時間を短くすることで、トレーニングの効果を残しながら、より取り組みやすくする工夫について徹底解説します!
楽してすぐに効果の出る魔法のトレーニングは存在しません。良いトレーニングを継続して行うことで初めて効果が目に見えてくるものです!
目次
忙しい人向けにざっくりまとめると
- 30秒全力スプリント+4分レストを反復するスプリントインターバルトレーニング(SIT)は、効果が高い一方で、かなりキツいトレーニングでなかなか取り組みづらい。
- 10秒全力スプリント+4分レストのSITでも、30秒全力スプリント+4分レストのSITと同程度にスプリントパフォーマンス、持久性パフォーマンス、最大酸素摂取量を高めることができる。
- 10秒スプリントのSITは、30秒スプリントのSITに比べ、主観的なキツさが少なく取り組みやすいと考えられるので、取り入れてみては?
- ただし、今回は一般人~運動愛好家レベルの被験者を対象とした時の結果で、体力レベルの高い人でも同等の結果とは限らない。→体力がついてきたらより有効性が担保されている30秒スプリント+4~5分レストの方法がいいかも。
10秒全力運動のスプリントインターバルトレーニングで効果が得られるか?
Hazell et al (2010) は、一般人~運動愛好家程度の体力レベルの被験者に対して、スプリントインターバルトレーニング(SIT)を、30秒全力スプリント+4分レストで行う群(30 s:4 min)、10秒全力スプリント+4分レストで行う群(10 s:4 min)、もしくは10秒全力スプリント+2分レストで行う群(10 s:2 min)に分け実験を行いました。運動様式は自転車全力漕ぎ運動です。2週間の間にトレーニングを計6回行い、最初の2回はスプリントを4本、3~4回目は5本、5~6回目は6本反復しました。
では、このトレーニングによりどのような変化が起きたのでしょうか?
運動パフォーマンスの変化
30秒全力スプリントのパフォーマンス
30秒全力スプリント中の最大パワー値はすべての群で有意に向上し、それぞれの伸び率は30 s:4 min群で9.5%、10 s:4 min群で8.5%、そして10 s:4 min群で4.2%増加しました。平均パワー値は30 s:4min群と10 s:4min群で有意に向上し、それぞれの伸び率は30 s:4 min群で12.1%、10 s:4 min群で6.5%でした。一方で、10 s:2 min群の平均パワー値は2.9%増加しましたが、統計的にはトレーニングの前後で差がありませんでした。つまり、スプリントの運動時間を10秒に短縮しても、30秒スプリントのパフォーマンスを向上させることができることが示されています。ただ、10秒スプリントを用いる場合、2分レストよりも4分レストの方が、トレーニング効果が期待できるようです。
30秒スプリント+4分レストでも10秒スプリント+4分レストでもスプリントパフォーマンスを高められる。
5㎞タイムトライアルのパフォーマンス
自転車の5㎞タイムトライアル (9-9.5分程度)のパフォーマンスは、すべての群で有意に向上し、それぞれの伸び率は30 s:4 min群で5.2%、10 s:4 min群で3.5%、そして10 s:2 min群で3.0%増加しました。つまり、30秒スプリントを用いたSITでも、10秒スプリントを用いたSITでも持久性運動パフォーマンスを向上させることができると示されています。
30秒スプリントのSITでも、10秒スプリントのSITでも持久性パフォーマンスを高められる!
最大酸素摂取量(VO2max)の変化
30秒スプリントを用いたSITは効率よくミトコンドリアを増加させ、最大酸素摂取量を向上させるトレーニング方法として知られています。では、10秒スプリントとごく短時間の運動を用いたSITでも同様の効果が得られるのでしょうか?
トレーニング介入の結果、VO2maxは30 s:4 min群(+9.3 %)と10 s:4 min群(+9.2 %)で有意に向上しました。一方、10 s:2 min群では、3.8%の増加が見られたものの、統計的な有意差にはわずかに至りませんでした(p=0.06)。このことから、30秒スプリントや10秒スプリントを4分レストで行うSITで最大酸素摂取量を向上させることができると示されました。
10秒スプリント+4分のSITでもVO2maxが向上する!
トレーニング時のパワー発揮
トレーニング中の運動時間や休息時間を変化させることによってトレーニング中に発揮できるパワーは変わってきます。トレーニング中に大きなパワーを発揮することは筋への力学的ストレスを増加させ、トレーニングによる適応を起こす上で重要です。この研究では、トレーニング全体(4~6本のスプリント)を平均化したパワー値が、最もパワー値が良かった1本のスプリント(たいてい1本目)に対して何%であったかを数値化して、トレーニング中の発揮パワーがどれくらい保たれたか定量化しています。
その結果、最大パワー値は、10 s:4 min群で96%、10 s:2 min群で95%維持されたものの、30 s:4 min群の値は有意に低く、89%しか維持できなかったと報告しています。同様に平均パワー値は10 s:4 min群で84%、10 s:2 min群で82%維持されたものの、30 s:4 min群の値は有意に低く、58%しか維持できないことが示されています。このことから、10秒スプリントを用いたSITでは、トレーニング中に高いレベルで発揮パワーを維持でき、30秒スプリントよりも高い力学的ストレスを負荷していることが示唆されています。ちなみに(力学的)ストレスと聞くとネガティブなイメージを持ち、無い方がいいと思われる方もいるかもしれませんが、身体が適応する際には何かしらのストレスが必要です。10秒スプリントのSITは、運動時間が短く生理学的なストレスが低い可能性があるものの、その分力学的ストレスが高く、30秒スプリントのSITと同様の効果が得られているのかもしれません。
10秒スプリントのSITでは、トレーニング中の発揮パワーを高いレベルで維持できる!
総括と限界点
本研究では、10秒スプリント+4分レストを用いたSITでも、従来から行われている30秒スプリント+4分レストを用いたSITと同等のトレーニング効果があることが示されました。30秒スプリントに比べて、10秒スプリントの方が主観的なキツさが低いことが予想され、体力レベルの低い人にも取り組みやすいと考えられます。30秒スプリントを用いたSITがキツくて取り組みにくい人は、まず10秒スプリントのSITから取り組んでみてはいかがでしょう?
一方で、今回の研究は、あくまで体力レベルの高くない被験者での結果を示したもので、十分にトレーニングの積んだ被験者でも同様の結果であるかは分かりません。また、10秒スプリントのSITを行う時に2分レストよりも4分レストの方が効果が高いというような結果でしたが、何がこの差をもたらしているかはこの研究からは分かりません。
まとめ
- 30秒全力スプリント+4分レストを反復するスプリントインターバルトレーニング(SIT)は、効果が高い一方で、かなりキツいトレーニングでなかなか取り組みづらい。
- 10秒全力スプリント+4分レストのSITでも、30秒全力スプリント+4分レストのSITと同程度にスプリントパフォーマンス、持久性パフォーマンス、最大酸素摂取量を高めることができる。
- 10秒スプリントのSITは、30秒スプリントのSITに比べ、主観的なキツさが少なく取り組みやすいと考えられるので、取り入れてみては?
- ただし、今回は一般人~運動愛好家レベルの被験者を対象とした時の結果で、体力レベルの高い人でも同等の結果とは限らない。→体力がついてきたらより有効性が担保されている30秒スプリント+4~5分レストの方法がいいかも。
参考文献
- Maclnnis and Gibala. (2017) Physiological Adaptations to Interval Training and the Role of Exercise Intensity.
- Hazell et al. (2010) 10 or 30-s Sprint Interval Training Bouts Enhance Both Aerobic and Anaerobic Performance.
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