トレーニング中の心拍数を正しく使おう![意外な落とし穴も!?]

持久性運動トレーニング
この記事を書いた人
竹井 尚也

東京大学 特任研究員/東京大学 陸上運動部コーチ

スポーツ科学(運動生理学)の研究者。科学的根拠に基づく運動指導を行っています。

指導した東大生から2年連続箱根ランナーが輩出しました。

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近年、心拍数を測定するウェアラブルデバイスは広く普及し、多くの市民ランナーの手に届くものとなりました。そのため、心拍数を目安にトレーニングを行う人も、最近では多く見かけられます。トレーニングを正しく行うには、主観的な感覚だけでなく、客観的な数値も活用することが重要です。心拍数は、運動中の相対運動強度を知ることができる客観的指標の一つです。トレーニング中に心拍数を測定することで、主観的な感覚と客観的な情報を擦り合わせて、あなたの日頃のトレーニングをより適切なものに近づけることができます。しかしながら、運動中の心拍数の応答について正しく理解しないと、心拍数は運動トレーニングの味方ではなく、落とし穴になってしまいます。本記事では、運動トレーニングに心拍数を活用する際のポイント・注意点についてご説明します。

目次

心拍数は、運動強度を知るために使える

心拍数は、運動強度(≒走るペース)に比例して増加することから、運動トレーニングの強度の指標となります。例えば、最大心拍数の70%で〇〇分走るなどとすることで、運動強度を一般化することができます。このように最大心拍数の〇〇%といった運動強度のことを「相対運動強度」といいます。一方で、1キロ〇〇分というような強度は「絶対運動強度」といいます。

トレーニングを万人に同じように処方しようとするとき(あるいは、誰かのトレーニングを自身のために取り入れようとするとき)、相対運動強度は大活躍します。「1キロ〇〇分で何分走る」みたいなメニューはある人にとっては楽すぎたり、またある人にとってはきつすぎたりしますが、「最大心拍数の〇〇%で何分走る」みたいな相対運動強度を用いたメニューなら、おおよそ同じような負荷を万人に与えることができます

絶対運動強度が当てにならない時にも、心拍数は使える

例えば、強い風が吹いているとき、アップダウンが激しいとき、自転車などの高速での単独走をしているときなどでは、速度(=絶対運動強度)は運動強度の指標として当てになりません。このような時に、心拍数など相対運動強度を用いることが重要です。
無風の1キロ4分と強い向かい風の1キロ4分では、運動のキツさが違うのは皆さん経験則で知っていることと思います。そこで、向かい風の時に、無風条件と同じくらいの負荷のトレーニングをしようとするならば、ペース(絶対運動強度)を少し落とす必要がありますが感覚だけではなかなか難しいと思います。そんな時に、心拍数(相対運動強度)を用いることで、より適切な強度設定をすることが可能です。例えば、80%最大心拍数で〇〇分走るというようなトレーニングを設定することで、絶対運動強度が当てにならない環境でも、狙ったトレーニングをしやすくなります

心拍数を用いるトレーニングの思わぬ落とし穴

心拍数を用いることで、より適切なトレーニング処方に近づけることができます。一方で、心拍数を用いるトレーニングを行う上で何点か注意すべきことがあります。このような点を正しく理解しないと、誤ったトレーニングになる恐れがあります。

心拍数の応答には遅れがある

運動をすると心拍数が増加しますが、このような心拍数の応答はリアルタイムでは起こりません。運動開始と同時に体の酸素需要は大きく上昇しますが、心拍数は運動開始直後にはあまり応答せず、数分程度運動を維持することでやっと酸素需要に見合った心拍数になります。
そこで、例えば、高強度インターバル走の運動初期には心拍数はあまり上がりませんし、持続走の途中でペースを上げた際にもすぐには心拍数は応答しません。高強度インターバル走や持続走でペースを上げた際の相対運動強度を正しく理解するには、少し時間が経ってから値を見る必要があります。特に、高強度インターバル走では運動初期の心拍数を高く保とうとするあまりに、休憩時間が過度に短くなり、結局インターバル走のペース(絶対運動強度)が過度に低下することがあります。高強度インターバル走では、速くペースで走り、力学的な刺激(大きな力発揮をする)ことも大事ですが、心拍数を誤って使ってしまうと、高強度インターバルの良さが失われることがあります

心拍数は長時間運動で漸増する

一定ペースの長時間運動では、運動開始数分後には心拍数が安定します。一方で、運動を長時間維持すると、ペースが一定であっても心拍数は徐々に増加(漸増)していきます。このような現象は心拍ドリフトと呼ばれます。心拍ドリフトの原因はいくつか考えられますが、一つには心臓が一回で押し出す血液量の低下(一回拍出量の低下)が考えられます。一定時間あたりに心臓が送り出す血液量(心拍出量)は、心拍数と心臓が一回で押し出す血液量(一回拍出量)で決まります。このうち、一回拍出量が低下するとそれを補うために心拍数が増大します。したがって、身体全体が必要としている心拍出量(≒酸素需要)が一定でも、心拍ドリフトにより心拍数が増大することがあります

もし、一定ペースの長時間運動中に心拍ドリフトによる心拍数の増大に応じて、ペースを下げていくと狙ったトレーニング負荷より低くなってしまうことがあります。そこで、一定ペースの長時間運動では、心拍ドリフトによる心拍数の漸増は無視して、一定ペースを維持することが重要です

競技レベルによる違いがある

心拍数を相対運動強度の指標として用いる場合には競技レベルによる差を考慮しないと正しい運動強度でトレーニングできなくなります。一般的に競技レベルが上がるほど同じ相対運動強度で運動を維持できる時間が長くなります
例えば、85%最大心拍数という同じ相対運動強度でも、競技レベルの高いAさんは30分走ることができますが、競技レベルの低いBさんは20分しか走れないということが起こりえます。そこで、自分より競技レベルのかなり高い人のトレーニングを参考に、相対運動強度を合わせる場合には運動時間を少し抑えめにする必要があります
このような点を抑えておかないと、ペース走を狙った時間維持できなかったり、中日の低強度のジョグでトレーニング負荷が高くなりすぎて過度に疲労してしまったりということが起こりえます。

まとめ

客観的指標の一つである心拍数を用いることで、より適切なトレーニング処方につながります。心拍数を用いることで、万人に同じようなトレーニング負荷を与えることができたり、速度が当てにならないような環境でも適切な強度設定ができたりします。一方で、心拍数を用いる際に、運動初期や後半での心拍数の応答の特徴や競技レベルによる差を正しく理解する必要があります。
心拍数を正しく用いて、あなたの日々のトレーニングをより良いものにしていきましょう!

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