[よくある間違い] 無酸素運動は酸素を使わない運動?

生理学
この記事を書いた人
竹井 尚也

東京大学 特任研究員/東京大学 陸上運動部コーチ

スポーツ科学(運動生理学)の研究者。科学的根拠に基づく運動指導を行っています。

指導した東大生から2年連続箱根ランナーが輩出しました。

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無酸素運動、有酸素運動の意味をちゃんと知ってますか?

有酸素運動は酸素が足りてて、酸素を使う運動です。では、無酸素運動は酸素が足りなくて、酸素を使わない運動だと思いますよね?

実 は こ の 説 明 は 間 違 い で す!!

今回は無酸素運動について学んでいきましょう!

目次

運動中のエネルギー供給

まず、無酸素、有酸素という語はエネルギー供給系から来ています。運動時のエネルギーを作るエネルギー供給系は、解糖系、ATP-CP系、酸化系の3つに分類することが出来ます。そしてこれらのエネルギー供給系のうち、

  • 解糖系やATP-CP系は、無酸素性エネルギー供給系
  • ミトコンドリアでの酸化系は、有酸素性エネルギー供給系

と呼ばれることがあります。

こう見ると無酸素エネルギー供給系は酸素が足りないときに働き、有酸素性エネルギー供給系は酸素が足りているときに働くように読み取れるかもしれません。

しかし、これらの無酸素、有酸素という語は、実は酸素の有無を指しているわけではありません!

運動生理学分野での”無酸素””有酸素”の本来の意味

無酸素エネルギー供給系の無酸素は英語の”Anaerobic”から来ています。

そして、その意味は酸素がないではなく、酸素を必要としない (not needing oxygen)です。
つまり酸素のある無しを表していないということです! (必要であるかと、あるかないかは別ですよね?)

つまり、解糖系やATP-CP系は、その反応を進める際に、“酸素を必要としない”供給系であるということです。そもそも生きている人間の体内の酸素がなくなる事はありません(=無酸素状態にはならない)。解糖系やATP-CP系は酸素が十分に周りにある中で、酸素を使わずに働くエネルギー供給系です!

ダッシュのような強度の高い運動では、解糖系やATP-CP系などの“酸素を必要としない”供給系の需要が高いので無酸素運動と呼ばれることがありますが、もちろん酸素は無くなりませんし呼吸もします。

どんな運動でも酸素を使って行う

運動中のエネルギー供給系は運動時間や運動種類で切り替わるわけではありません。

どんな運動でもすべての供給系が同時に働きます

したがって、たとえスプリント運動でも酸素を使います。俗に“究極の無酸素運動”などと言われる400m走も、実は全エネルギーの半分ほどは酸素を使って作られています

つまり、無酸素運動は、体のなかに酸素があって、さらに酸素を使う運動です!
そうすると”無酸素”という語は実情に沿わなくなってきます。

そこで、無酸素運動は高強度運動やスプリント運動などと呼び変えるのをおすすめします

大抵の人は無酸素運動という語で、解糖系などの酸素の使われ方にフォーカスしているわけではなく、単に激しい運動であることを伝えたいのだと思います。その場合は、高強度運動やスプリント運動などで十分に表現できます。

ここまで読んでいただいた方は、ぜひ誤解の少ない表現を広めて下さい!

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