高強度インターバルトレーニング(High Intensity Interval Training, HIIT)は、心肺機能や代謝能力を効果的に高めるトレーニング手法として、多くの持久性アスリートに古くから取り入れられています。また、近年の研究では、HIITはアスリートの運動パフォーマンス向上のみならず一般人の健康増進にも寄与することも分かっています。
HIITをより効果的に実施するために、よく「どれくらいの強度で、どのくらいの時間走るか」が議論させます。HIITを始めとするインターバル運動は、運動強度の高い主運動(高速度のランニングやダッシュなど)と運動強度の低い緩運動(ジョギングやウォーキングなど)を繰り返します。そこで、前述の「どれくらいの強度で、どのくらいの時間走るか」というのは、主運動の運動強度と時間を指すことが多いです。一方、見落としがちですが緩運動の運動強度や時間も、実はHIITを始めとするインターバルトレーニングの効果を左右する重要な要素です。本記事では、特にHIITの緩運動の時間、つまりどれくらい休むべきかについて徹底解説します。
目次
忙しい人向けにざっくりまとめると
- 高強度インターバルトレーニングで過度に休息を短くしても、主観的にはキツくなるだけで生理学的なトレーニング刺激(心肺への刺激)は増加しない
- 一方で、過度に休息を短くすると、運動強度(ペース)が保てなくなり力学的なトレーニング刺激が減弱する
- トレーニング効果を最大化するために高強度インターバルトレーニングでは、しっかり休んだ方がいい!(運動と休息の時間の比1:1推奨)
高強度インターバルトレーニングとは?
まず初めに、高強度インターバルトレーニング(HIIT)とは、何かについて解説します。HIITには、いくつか種類があります。それぞれの分類に明確な定義があるわけではありませんが、以下のようなものがあります。
- 90-100%VO2maxで数分間の運動を繰り返す方法(e.g. 6×4分@90-100VO2max)
- 数十秒の全力運動(or 全力に近い運動)を長い休息を挟み繰り返すもの(e.g. 4-6×30秒全力スプリント;4-5分休息)
- タバタプロトコル (e.g. 6-8×20秒@170%VO2max;10秒休息)
- 数秒~十数秒の全力スプリントを短い休息を挟み繰り返すもの(e.g. 5-10×6秒全力スプリント;24秒休息)
上記の内、1~3は主にVO2maxを高め、持久性運動パフォーマンスを向上させる目的で行われることが多いです。4の方法は繰り返しスプリントトレーニング(Repeated Sprint training, RS)と呼ばれます(HIITに分類されないこともあり)。4の方法は主に球技スポーツアスリートの繰り返しスプリント能力を高める目的で用いられます。また、HIITというと単に1の方法を指すことも多く、2の方法はスプリントインターバルトレーニング(SIT)、3の方法はタバタプロトコル(タバタトレーニング)という風に区別して呼ばれることも多いです。本記事では、1の方法に焦点を当てて、どのくらい休むべきかについて解説します!
なぜ短い休息時間を選択しようとするのか?
HIITを行おうとする際に、より短い休息時間を選択しようとする場面をしばしば目にします。その背景には、高い心拍数や酸素摂取量(≒換気量)でより長い時間運動して心肺に負荷をかけようという考えがあります。心拍数や酸素摂取量が最大近くに高まった状態を長時間維持すると、すなわち心肺は長時間フル稼働するわけで、結果的に心肺機能が高まるでしょうという理屈です。休息時間を短くすると、心拍数や呼吸が落ち着き切らない内に次の運動を開始することになり、直観的には心拍数や酸素摂取量が高いまま維持される時間は長くなるような気がします。
レストを短くする戦略は、心肺を高いレベル(高心拍数&高酸素摂取量)で長い時間活動させることを狙っているようです。
異なる休息時間が高強度インターバル運動に及ぼす影響
本当にそうなのでしょうか? Schoenmakers and Reed (2019)は、リクリエーショナルなレベルのランナー(VO2max: 53±7 ml/kg/min)を対象に以下のような実験をしました。
走行速度は、6本をなるべく均等に速く走り切れると思う速度を自由選択
休息時間の自由選択条件は、時計を見ずに、主観的に十分に休息できたと思ったらスタート
次に、生理学的刺激(90-95%VO2max,HRmaxの時間)は、どの条件でも差がなかったと報告されています。つまり、休息時間を短くして呼吸や心拍数が収まらない内に頑張って走ったとしても心肺にかかる刺激は同じということが示されました。
休息を過度に短くしたら生理学的刺激が高まらないだけでなく、さらに走速度が低下することで力学的刺激が減弱し、むしろトレーニング効果が下がる恐れがあります。
主観と現実(客観)は必ずしも一致しないので、主観のみに基づいて休息時間を決めるのは良くないです。
ちなみに今回はリクリエーショナルなレベルの被験者(VO2max: 53±7 ml/kg/min)が対象でしたが、もう少しレベルの高いアスリート(中級者 VO2max: 60.8±5.3 ml/kg/min; 上級者 VO2max: 72±5 ml/kg/min)を調べた研究でも同様に過度に短いレストは生理学的刺激を増大させずに、一方で力学的刺激が減弱するという結果になっています(Laurent et al., 2014; Seiler and Hetlelid, 2005)。ただ、上級者の場合は十分な休息に必要な時間は多少異なり、2分の休息でも十分に回復できるようです(Seiler and Hetlelid, 2005)。しかし、ここでいう上級者はVO2maxが72 ml/kg/min前後ということでエリートランナー(VO2max: >75 ml/kg/min)の一歩手前という感じの値です。なので、市民ランナーの場合は、4分間の高強度インターバル走において2分休息で十分に回復できるのはごく一握りの上位層であると予想されます。
では、具体的にどれくらい休めばよい?
高強度インターバルトレーニングでは、適切な運動と休息のバランスを設定するために、運動休息比という考えがあります。運動休息比は単純に運動時間(主運動の時間)と休息時間(緩運動の時間)の比で表されます。例えば、4分運動2分休息なら運動休息比は2:1、4分運動4分休息なら運動休息比は1:1ということになります。一般に、高強度インターバルトレーニングの運動休息比は2:1~1:1程度で行うことが推奨されます。しかし、前述のように高強度インターバル運動中にどの程度休息すべきかは競技レベルによって異なるようです。
そこで著者は、トレーニング効果を最大化するために、上級者以外の大抵の競技者は運動休息比1:1前後を目安に高強度インターバルトレーニングを行うことを推奨します。
また、今回は触れていませんが緩運動の強度(ペース)によっても十分な休息がとれるか否かが変わります。しばしば、緩運動の強度を高めすぎて肝心の主運動の強度や量が保てなくなる事例が見受けられます。高強度インターバルトレーニングで最も重要なのは主運動の強度と量なので、緩運動の強度は主運動が十分に行えるように高めすぎないことが重要です。
トレーニング効果を最大化するためには、高強度インターバルトレーニングで恐れずにしっかり休もう!
まとめ
- 高強度インターバル運動中に休息時間を短くしても生理学的刺激は増大しない
- 高強度インターバル運動中に休息時間を過度に短くすると力学的刺激が減弱する
- トレーニング効果を最大化するためには、高強度インターバルトレーニングを行う際の運動休息比は1:1程度がおすすめ
- 高強度インターバルトレーニングで最も重要なのは、主運動の強度と量(しっかり休もう!)
参考文献
- Schoenmakers and Reed. (2019) The effects of recovery duration on physiological and perceptual responses of trained runners during four self-paced HIIT sessions.
- Laurent et al. (2014) Sex-specific responses to self-paced, high-intensity interval training with variable recovery periods.
- Seiler and Hetlelid. (2005) The impact of rest duration on work intensity and RPE during interval training.
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